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COCOROSTORE取材報告 ― 「アートスポット」掲載基準検討の手がかりとして

リサーチャー 谷口茉優(うかぶLLC)

2026.08.03

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はじめに

 本記事では、TPlat webサイト内のページ「アートスポット」の掲載基準を検討するため、各地で活動する文化的な拠点を取材した。今回は、鳥取の工芸を扱うCOCOROSTOREを訪ね、その活動や運営の考え方について話を伺った。

 TPlat webサイトでは、鳥取県内の文化的・創造的活動の拠点を紹介し、新たな繋がりが生まれることを目指している。そのため、鳥取で「今」起きている活動を伝えることを重視している。その視点から着目したのが、倉吉市のCOCOROSTOREである。工芸品の販売から、復刻や技術継承のプロジェクトなど、多様な活動を展開しており、その背景にある考え方を伺うことで、現在の鳥取の工芸を取り巻く動きを知ることができるのではないかと考えた。COCOROSTOREは、「山陰の自然と共に生きる人や技、繋がりこれらの素材を紹介」することを理念に掲げ、地域に根ざした手仕事を人へ届ける活動を行っている。

 代表の田中信宏さんは、「小売がしたいからお店をやってるわけじゃないんです」と話す。その言葉の背景には、「山陰の工芸品を届けたい」という思いがある。なぜ鳥取で活動を続けるのか。そして、この土地に根づく「民工芸」をどのように捉えているのか、お話を伺った。

COCOROSTORE インタビュイー:田中 信宏さん

個人で続ける理由

ーCOCOROSTOREさんは、工芸品の販売のほか、オリジナルプロダクトの開発や「YANAGIYA REPRODUCT」1といったプロジェクトもされていますよね。私の中でのセレクトショップのイメージを超えているように感じています。

はい。民工芸品販売の小売りがしたいからお店を始めたわけじゃなくて、山陰の民工芸を知って貰える場所を作りたいという思いでお店を始めました。鳥取の民工芸品をより多くの人に紹介することが目的なので、販売はひとつの手段として、実店舗を構えているという感覚です。

ー2012年に個人事業としてスタートし、現在は「合同会社あとあとの」として運営されていますが、法人化をしたのはどのタイミングだったんでしょうか。

経理上で法人化した方が良いという判断で2020年から法人化しました。

ー法人化することで変化はありましたか。

取引先と契約する際や公的機関の支援の面で、個人事業よりは法人の方が信用度が高く、サポートという点でも違いがありましたね。規模を大きくする為にというわけではないです。自分の性格上従業員を育てることは不向きだということはわかっていて、基本的には個人でやれる範囲は個人でやり、できないことは外注に依頼します。

従業員の給料を払うために、受けたくない仕事を受けたり仕事に対して妥協してしまうこともありうるのではないかと思うので自分のお店を健全な状態で運営し続ける手段です。

人生の中で妥協したり、ストレスを抱えたりして、違うものを表現して、それを伝える、ということはしたくないので自分の出来る範囲で良いものを紹介し続けられたらと思っています。

ーその姿勢には、ご自身に無理がなく、それでいてものづくりに対する誠実さを感じます。
オリジナルプロダクトの開発など、作家さんとのやりとりをするうえで大事にしていることはありますか。

実店舗で販売を継続すると職人さんや作家さんとの信頼関係が築かれて行きました。作り手からお店のオリジナル商品を作らないかという声が生まれたり、いつかこんな商品をお店のオリジナルで作れたらという思いを伝えて製作に至ったりしています。最近では卸先の取引先と作り手をつなげて相手先のオリジナル商品を作ることも行っています。もともと色々なニーズに答えるために、「こういうものを作ってほしい」というリクエストをいただいて、作り手に製作依頼したり使い心地など意見をフィードバックをし、より良いかたちにして届ける、ということが開店当初からいつかはしたいという思いがあったので。

ただ「年間保証」のような考え方は好きではありません。作り手の年間に作れる量には限りがあるので、それをすべて当店の依頼だけで製作していただくということは双方にとって良策ではないと思っています。ここ(COCOROSTORE)からの注文もあれば、他の取引先からの注文もあるし、個人のお客様からの依頼もある。さらに作り手自身の作りたい作品も作る。そういういろんな刺激の中で生まれるものづくりの方が豊かだと思っています。 だから当店にウエイトをしめて専属のような形で製作していただくということはしたくないですね。

やりたいものを作ってほしいです。 作り手の特徴や思考をつかむ事なく一方的に「こういうのを作ってください」と言って製作に至って、違和感があるものになれば、残念ですし、関係性も長続きはしないと思います。

1.YANAGIYA REPRODUCT…柳屋:鳥取市で1928年から2014年まで郷土玩具を制作した工房。初代・田中達之助による創作と復元の営みは家族に受け継がれ、現在は「YANAGIYA REPRODUCT」によってその技法が継承されている。

健康であること

ー鳥取では民藝の印象が強いと思うのですが、田中さんは民藝についてどのように捉えられていますか。

柳宗悦が提唱した民藝には、いくつか条件のようなものがあり、それに該当するものが民藝品とされる、という解釈をしています。全てに該当して製作している工房は徐々に少なくなっていると思っています。

現地の素材を使うとか、安価であるべきという考えがありますが、昔の製陶法なら、地元の土を使って、釉薬を作り薪を手配し、窯で焼き上げる。今は全ての材料を地元で手配するという事や窯焚きも制限があり難しくなっている昨今、昔ながらの製陶では出来ない工房もあると思います。

「民藝」という括りではなくて、民工芸という現代のやり方を模索しながら表現に至った工芸品を紹介しています。

健全なものづくりという視点で自分自身が健康なものづくりをしているか。それはいろんな場面で共通することだと思います。ストレスを抱えながら作っていたら健康的じゃない。無理な量産、無理な価格、無理なバランスで成り立つ関係性、どこかに無理があれば、いずれ歪みが出る。それは工芸でも生活の面でも同じだと思います。

ーかつては民藝運動の拠点となり、吉田璋也などキーパーソンの存在もありましたよね。

そうですね、キーパーソンという特定の方が今は生まれにくいですが、県などの大きな組織がそこを担っていると思っています。

ー突出したキーパーソン的な存在がいない今の状態は、ある意味で一般化されているとも言えそうです。 誰かのためではないからこそ、広く人に届く。小さな地域に多様で質の高いものづくりが存在していること自体が、豊かさだと感じました。

変化し続ける店

ー作ってもらい、流し、売る。空気を入れ替えるように新しいものを取り入れ、変化していく姿勢から、COCOROSTOREは「循環」の場のように感じました。

小売店だけの機能であれば鳥取県は商圏が小さいので循環が鈍くなるように思います。長く使用できる民工芸品をお客様個人が必要以上にもつ事は不必要だと思っています。

小売とは別に卸売としての機能も大切にしているので、必要としてくれる国内外の取引先の店舗に届けることを行っています。作ってもらって、届けて、使ってもらう。使用した声を聞いて、またより良いものを生み出すという循環。それらをまた紹介できるし、来店した人にも伝えられる。その循環を続けていくことが、バランスがいいと思っています。

ー販売や「YANAGIYA REPRODUCT」などのプロジェクトにおいても、工芸品を“生きたまま”届けている印象があります。そして届けることを「販売」や「継承」「復刻」という形で実現させているのかなと勝手に感じていて。

そうですね。古いものには古いものの価値がある。でも、使いながら育てていく楽しさもあると思う。完成された美しい古さを買うより、自分で育てる過程が私は好きです。

今を生きる作り手としては、使われて変化していく姿を見られる方が嬉しいと思う。現代の人が作ったものを、同じく現代の人が使い続け、修理、メンテナンスしながら何十年と長く使う。作り手が、あの時作ったものだと思いだすのも嬉しいものです。 作り手の変化や成長も、使い手には伝わると思う。

製作者が亡くなってしまったとしても継承できる人が育っていればまた繋がっていくので生きた工芸を育てていけたらと思っています。

ー販売は一つの過程であり、その先に使い続けることで成長がある、ということですね。

オープン当初に来た人が、数年ぶりに来店すると、雰囲気が全然違うと言われることがあります。

自分自身もお店も成長するし、外に出て学んだり、良いものや良い人に出会えればそこでまた変化する。作り手も同様で10年前に作っていた同じ形状のスプーン一つとっても、 刃物の研ぎ方や道具や材料、仕上げも変わっている。常に変化しているんです。 良いものを作ろうと思えば変わろうと工夫するからそこに変化が生まれる。

工芸の範囲は、もっと広い

ー初歩的な質問ですみません、版画も工芸の一種になるのでしょうか。

なると思いますよ。絵でも何でも。これはあくまで僕の解釈ですが。

例えば木版画であれば、素材の選び方によって方向性が変わる。どんな木を使うか、どんな紙を使うか、何で染めるか。 地元素材を使えば、それは工芸や民藝に近づいていくかもしれないし、 現代アートになることもある。

絵も同じで、画材や支持体によって変わる。素材によってジャンルが立ち上がる、という感覚です。

結び

 健康で持続可能な関係性の中にあるかどうかという話が印象的だった。誰がどのように作り、それがどのように使われていくのか。COCOROSTOREは、ものそのものだけではなく、その背景にある人や土地、技術の循環を届けているのだ。

 そうした考え方は、工芸や美術などジャンルを捉え直す視点にもつながる。活動を既存のジャンルに当てはめて考えるのではなく、その活動が何を媒介し、どのような関係性を生み出しているのかという視点から捉えること。活動を関係性から捉える視点は、「アートスポット」の掲載基準を考える上でも、重要な手がかりになる。